◆くっき〜のお薬よろず相談箱◆
薬剤師として働きながら医師を目指すくっき〜さんが
協力してくださっているカテゴリーです。


情報交換型ツリーBBSより Part1

注(新しい記事が上になっていますので下の方からお読み下さい。
質問と投稿の順番を合わせるため投稿日時が前後しています。))


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くっき〜さん    [2000年3月6日 15時36分13秒]

くっき〜のお薬よろず相談箱” その四  from mamiさん

「臭化カリウムとは」

臭化カリウム(以下KBr)は抗痙攣薬として最も古い歴史を持つ薬剤で,こ
の薬物の使用がてんかんの近代的治療法の幕開けとなりました。
[余談ですが,それまでは悪魔を追い出すためのお祈りや,悪い血を出す
ために血を抜く(これを“瀉血”といいますが,効果があるどころかかえ
って有害です。)など,“治療”と呼ぶに値するものは無かったのです。]

KBr(商品名も“臭化カリウム”で複数の会社から販売されています)は
当初精神科領域で鎮静剤として投与されていましたが,痙攣性疾患患者に
投与したところ抑制効果が認められ,それ以降抗てんかん薬としての投与
が始まりました。

特徴としては化学構造が極めて単純(名前からも想像できるように塩化ナ
トリウム,つまり食塩にそっくりです)で,体内では“臭化物イオン”と
“カリウムイオン”に分かれ,このうち前者が脳の神経細胞の興奮を抑制
することで効果を発現します。

治療効果が現れるまでは一定期間の連続投与により,KBrの血中濃度をあ
る程度のレベルまで上げてやる必要があります。しかしKBrは蓄積性が高
い上に中毒量と有効量の差が小さいため使い方が難しく,血中濃度と副作
用の発現を慎重に観察しながら投与する必要があり,そのせいもあってか
次第にてんかん治療の場からは姿を消していきました。

しかし近年になって,未だ適切な治療薬が存在しない一部の小児の難治性
てんかんに対し,有用性が認められ限定的に使用されています。
なお腎疾患(薬物の排泄能力が低下)や低塩分食摂取患者(電解質バラン
スのコントロールに影響を与える),器質性の脳疾患等には一般に禁忌と
されていますので,結節性硬化症に起因するてんかん発作に投与が可能か
どうかは主治医の先生に聞いてみて下さい。


<おまけの知識  −“器質性”とは?−>
医学用語でよく使われる“器質性”いう言葉について簡単に書いてみました。

“器質性”=「器官の,構造上の」
てんかんに関していえば,脳自体に障害が認められそれが原因となって発作が生
じている場合にこの言葉を用います。つまり症状(発作)と原因(脳の障害)の
因果関係分かっているタイプのものを指します。
例)交通事故による頭部の外傷や脳腫瘍,先天的な脳奇形によるもの

しかし実際てんかん発作の原因が明らかであるケースは少なく,症状を引き起こ
す要因が不明の場合には“特発性,本態性”=「原因が不明の」という言葉が使
われます。


mamiさん [ 2000年1月17日 23時38分24秒]

はじめまして。
結節性硬化症の6ヶ月の女児をもつ母です。いつもご活躍は拝見させていただいております。
みなさん、くっき〜さんの出番を今か今かと待ち望んでいらっしゃるようなので、お時間の
あるときで結構ですので教えてください。
結節性硬化症のてんかんにシュウ化カリウムが有効という話を聞きました。
“シュウ化カリウム”って抗てんかん剤として商品化されているものであれば、なんという
薬のことなのでしょう。教えてください。

くっき〜さん    [2000年3月9日 13時48分51秒]

 “くっき〜のお薬よろず相談箱” その五  from みほさん

 「エクセグランとは」

“ゾニザミド(商品名:エクセグラン)”は,日本で開発された比較的新しいタイプの
抗てんかん薬(1989年に販売開始)です。それまでの抗てんかん薬とは全く異なった化
学構造を持ち,これまで有効な薬物が少なかった部分発作や,その他の発作の混合型
等の難治例にもある程度有効である,抗てんかんスペクトルが広い(=様々な発作型
に有効である)等の特徴から,小児に対しても広く投薬されています。

新しい薬であるだけに,その作用機序についてはまだまだ不明の点が多いですが,お
そらく神経細胞の過度の興奮が周囲に広がることを抑制し,結果発作につながるのを
防いでいると考えられています。

服用上の注意は以下の通りです。
1.処方通りの量を規則正しく服用
 →本薬に限らず,ほとんどの抗てんかん薬は血中濃度を一定に維持して初めて効果
  が期待できます。また急激な減薬や中止は痙攣重積状態を引き起こす事がありま
  すので厳禁です。

2.副作用は皮膚症状(発疹,紅斑等)や精神神経症状(眠気,運動失調),眼(もの
 がだぶって見える),消化器,腎・肝機能,血液等様々です。これらの多くは投与
 初期に現れますが,気になることがあったら,常に主治医の先生に相談しましょう。
 また既にやっているとは思いますが,血中濃度の測定は治療効果の確認と副作用防
 止のためにも必須です。
 
3.汗をかく量が減少することがあります。特に夏や発熱時は体温が上がり過ぎないよう
 高温となる環境を避けてください

みほさん    [2000年1月6日 12時46分53秒]

もうすぐ7カ月のダウン症の男の子のママです。
先月、ウエスト症候群と診断されB6→デパケン→エクセグランと
薬を投与してます。
エクセグランが効いてるのかここ2日発作がなくこのまま投与を続
ける事になりそうです。エクセグランについて詳しく教えて頂ける
とうれしいです。

くっき〜さん    [1999年11月16日 13時13分56秒] 投稿

“くっき〜のお薬よろず相談箱” その三   from たぬきちさん

「抗てんかん薬で作用が強まることはあるのか」

まず最初に結論を申し上げますと「てんかんの場合,投薬により発作が悪化ないし改善されないという現象は少なからず見られるものです」。抗てんかん薬は,数ある薬の中でも特に処方が難しく,その人に適した薬の種類と量が決定できれば治療はほぼ完了したと言えるくらい,薬剤の選択は難しくかつ重要な位置を占めるのが実状です。

ではなぜ発作を抑えるはずの薬が,発作を誘発するのでしょうか?てんかんの原因は,「脳を構成する神経細胞が過剰に興奮すること」にあり,多くの抗てんかん薬は神経細胞の興奮度を低下させ,より安定化させることにより作用を示すと考えられています。

この安定化作用の仕組みが薬ごとに違う(どんな細胞のどの部分に効くのか?)ため,個々の薬がどのタイプの発作に効くか差が生じるとされているのですが,脳の仕組みについてはまだ分かっていないことも多く,検査や発作の形態などの所見から最適な薬を,一回で選ぶのは容易ではありません。そのため「興奮していない細胞までも安定化させてしまう」ないし「安定させ過ぎて逆に抑制してしまう」といったことが起こり,これらは,発作の増強や副作用として現れてしまいます。

薬が発作を誘発する理由についてはまだ不明の点が多いのですが,一つの理由としては不適切な抗てんかん薬の投与によって,本来脳の中に備わっている“神経細胞の興奮を抑えるための神経”までもが抑制されてしまうという仕組みが考えられています。

これをたとえ話で説明してみましょう。

“たぬきちさんは最近睡眠不足で悩んでいます。何の音かは分からないのですがいつも夜中になると大きい音で目を覚ましてしまうのです。飼っている犬が吠えるせいで起こされるのだと考えたたぬきちさんは,夜の餌に眠り薬を混ぜました。するとそれまでは犬がいたために,家の側までは近づいて来なかった暴走族のバイクが玄関までやってくるようになり,ますます眠れなくなってしまいました。”

  たぬきちさん   (大脳)

  睡眠不足     (発作)

  大きな物音    (神経細胞の興奮)

  犬        (神経細胞の興奮を抑えるための神経)

  餌に混ぜた眠り薬 (適してない抗てんかん薬)

  暴走族      (本当の発作の原因となってる神経)

これらで置き換えてみてください。ややこしいですけど理解していただけましたか?

また病状が進行している時期は発作を放置するほど次の発作がの程度が重く,また治り難いものになることがあるため,効果のない薬物を投与しているとその薬が症状を悪化させた様に見えることもあります。

処方が決まるまでは色々と大変かと思いますが,娘さん共々病気に負けないでください。北の果てから応援しています。

旭川は今日も氷点下(現在 12時,なのに外の気温は-1度)

くっき〜さん   [1999年11月11日 17時49分13秒] 投稿   

“くっき〜のお薬相談箱” -その一の二- 「ガスコン」について from きなこさん

“ジメチコン: (商品名)ガスコン”はお腹のなかのガスの細かい泡を破裂させて排出しやすくする薬です。例としてビールを注いで蓋をしたコップを考えてみましょう。コップと蓋が消化管,ビールがドロドロになった消化物,泡が消化の過程で発生したガスとします。放っておいたビールはそのうち泡の部分が無くなったように見えますがしまいますが,これは細かい泡が次々と破裂して一つの大きな炭酸ガスの塊になってしまったのです。同じようにジメチコンを飲むと,腸内のガスの粒は潰れて集まり,やがておならやげっぷになってでてくる訳ですな。

 この過程で腸の壁が刺激されるので,ジメチコンは緩い下剤としての作用も持っています。

くっき〜さん   [1999年11月11日 17時45分5秒] 投稿

“くっき〜のお薬相談箱”   -番外編- スポドリ vs ソリタT3

注)“ベビー” = “某社のベビー用イオン飲料”

私が以前研修に行っていた,大学病院の薬剤部では,二日酔いのお医者さんがソリタ T3をもらいに来て飲んでました(笑)。さてさて両者の成分は以下の通りです。

   ポカリ  ソリタT3  ベビー (参考)生食

K+   5  20   20    - (mEq/l) ← イオン濃度

Na+    21  35   30   154 (mEq/l)  の単位です

Ca2+    1  -    -    - (mEq/l)

Mg2+    0.5  -    -    - (mEq/l)

Cl-   16   35   25   154 (mEq/l)

クエン酸 3-  10  -   ?    - (mEq/l)

乳酸 -    1  20   -    - (mEq/l)

糖分    7.2   4.3   5.8    - (%)

カロリー  288  172   230    0 (kcal/l)

見てのとおり缶入りのポカリ (350ml)を一缶飲むと糖分を約25gとることになります。こりゃ結構な量だ。虫歯になるのも納得がいく。NaCl(食塩)はそれほど多くないけど,カリウムの塩(K+)が結構多いですね。ソリタはカロリーは少な目だけど塩分が多め。少なくともポカリとはまったく別物ですね。どっちがいいかは別として。

カリウムは尿中に排泄されやすいので,食塩ほど問題にはされないですが,赤ちゃんは腎機能がまだ不完全だし薬も飲んでる事ですから,あまり腎臓に余計な負担をかけない様に余分な塩分は摂らない様にしましょう。

“ベビー”には「一日 200mlまで,与え過ぎない様に」と注意書きがありました。これがカロリーのとり過ぎを防ぐためなのか,塩分を摂り過ぎないためかはわかりませんが。

最後に“ベビー”を飲んだ感想です。「大人の飲むものではない。」

たぬきちさん  [1999年11月8日 18時33分55秒] 投稿

第三回目の予約してもかまいませんか?(笑)失礼しました。新入りのたぬきちと申します。今までのゆ〜り〜さん達とのやり取りを見て信頼できる方だと思っていました。うちの娘は 2ヶ月前に初発作を起こして以来、「テグレトール」を服用していました。が、今考えると服用によって発作が増えたように感じるのです。発作の勢いが強くなったというか。発作のパターンはたいてい寝入りばなに目が白目がかる→手足のけいれん→脱力と15分ほど続きます。どうも前兆を感じるらしく「悲しい」とか「なんか・・」と言います。1ヶ月前からエクセグランを飲み始めたところ、発作や興奮状態(頭に血が上るみたいな)は治まっています。薬によって症状が強く出るということはあるのでしょうか?

すみません、勉強させてください。

くっき〜さん  [1999年11月8日 15時41分26秒] 投稿

“くっき〜のお薬よろず相談箱”  第 1回 歯茎の腫れ(from さえこさん)

まず“炎症”について説明します。“炎症”とは,有害な微生物の感染や,外傷・手術といった損傷を受けた場合に,以下の二点を目的とし生体が起こす一連の反応を指します。

1. 損傷の原因の除去 2.損傷した部位の修復

これには免疫系が大きく関わっており,アレルギー反応もその一種ですが,多くの症例では急性期(発症してすぐ)には下に示した“炎症の四大徴候”が観察されます。

1. 発赤 血管が拡張して血流が増加するためその部分は赤くなります。

    例)花粉症になると眼が真っ赤になる。

2. 腫脹 血管から組織に向かって滲みだした血漿が細胞の間に溜まった状態です。

    例)蜂に刺されると腫れ上がる。

3. 発熱 増大した血流が周囲の組織を暖めます。

    例)足を捻挫するとその部位が熱を持つ。

4. 疼痛 滲みだした液体が細胞の周りの神経を刺激します。

    例)風邪を引くと喉が痛い。

<歯茎の腫れ>

さて歯茎で炎症が起こると俗に言う“歯肉炎”になりますが,こうなると歯茎は真っ赤腫れてブニョブニョになり痛くて歯も磨けない。上記の徴候をしっかり満たしています。これを防ぐには,きっちり柔らかめの歯ブラシで歯磨きをして歯垢を取り,口の中の細菌が増えるのを抑えるのと同時に,歯茎をマッサージして滞った血行をよくしてやればいいわけです。

<歯肉増殖>

薬が原因で起こる歯茎の腫れは,炎症とは異なり“歯肉増殖”と呼ばれる状態で,これは薬の作用で歯茎をつくっている細胞の数自体が増えた状態です。歯茎の細胞をブロック,歯茎をブロック塀,に例えてみましょう。“歯肉炎”はブロックの隙間のセメントが膨らんで塀がグラグラになった状態。“歯肉増殖”はブロックが無秩序に増えていった状態です。歯茎の細胞はもともと入れ替わりが激しいのですが,そのコントロールが乱れて,細胞が増えるスピードが歯茎の細胞が入れ替わるサイクルを追い越すとこういった結果になるのです。

“歯肉増殖”は炎症を伴わないため本来は痛みなどを感じません。また残念なことに歯磨きを頑張っても“歯肉増殖”自体は抑えられないのが現状です。しかし肥った歯茎と歯の間に歯垢が貯まりやすくなるため容易に“歯肉炎”や虫歯≠ヨ移行しますから歯磨きはの重要性は一段と増大します。

なお<歯肉増殖>を起こす薬物としては以下のようなものが知られています。

フェニトイン:抗てんかん薬

シクロスポリン:免疫抑制剤(ネフローゼ症候群等)

ニフェジピン等のカルシウムブロッカー:降圧剤

くっき〜さん  [1999年11月8日 15時37分50秒] 投稿

“くっき〜のお薬よろず相談箱”開箱のお知らせ

抗てんかん薬に関する質問だけでなく,薬に関する疑問をお寄せ下さい。(「薬剤師」+「医師の卵」)÷2 である筆者が,分かり易く説明します。

但し,本欄での回答はあくまで一つの参考意見と受け取るにとどめ,特に実際の治療に関わる点については,医師の判断を仰いで下さい

なるべく早いレスを心がけますが,特に大学のパソコン部屋が閉まる土日や,試験前はどうしてもお返事が遅くなりますのでご容赦ください。

ではよろしくお願いします。 m(__)m